嶽本野ばら『鱗姫』読了

鱗姫 (小学館文庫)

鱗姫 (小学館文庫)

僕が買った時は楼子さんが表紙でした。ひたすら美を追及する登場人物を通して、野ばら氏の美意識がひしひしと伝わってきます。特に気に入ったのは、

−−−現代を私が嫌悪し続けるのはね、醜いものを醜いという感覚を拘束し、体面で糊塗することが人間らしさだとされる時代だからなの。その結果、異形のものは全て闇に葬られることになった。

というくだりで、醜いものが「醜いもの」として差別され、薄っぺらい同情を掛けられること自体、酷いと書かれてます。昔のように「化け物」としてでも差別されれば、それなりのアイデンティティを持つこともできたし、反逆をすることも可能だったわけです。が、哀れみの対象でしかない訳ですよ。ある意味酷いですね。そして、醜が醜として扱われないことで、対局にある美も美になり切れない。
エミリー (集英社文庫)なるほど、美も奥が深い。本編のストーリーはシンプルですので、今から読もうと思う人は、ぜひ、野ばら氏の美意識を体感してみて下さい。あ、やっぱり、この作品でも終盤に・・・。エミリー (集英社文庫)では大きな意味があっただけに、ちょっと残念でした。